農林水産省の通信簿(輸出額編)
小学生時の通知表を古いファイルから引っ張り出して眺めてみると、成績の他に、「授業態度の見直しを図りましょう」とか「学習ではじっくりと問題を読み、落ち着いて解くようにしましょう」といった、子供の態度や性格についての記述があります。
担任からのちょっとしたコメントで、親が授業参観日以外では知ることが出来ない子供の学校での態度や思考の傾向を知ることが出来る訳ですね。
さて、親が子供の態度や思考の傾向を把握することも重要ですが、一般市民が行政機関の態度や仕事の傾向を把握することもとても重要です。
農業の世界では、生産者が内閣総理大臣賞といった賞の授与を通じてお上から評価されることはっても、お上を一般市民が評価することはありません。
だから、日本の農林水産業の管理を任務としている農林水産省が行う仕事にどんな特徴があるのか、計画と実行力がどの程度か、なんてことは分からない訳です。
ということで、今回は不遜にも農林水産省を評価してみようという回。
対象とした教科は農産物輸出について。
なぜかというと、日本政府も農水省もこれから日本は農産物輸出を増やしていこうぜという方針ですが、その計画と実行力がどの程度のものなのかは定かではないからです。
過去10年の能力が、これからの10年で激変すると信じるのは難しいですよね?
ということで、まずは約10年前の農水省の現状認識と計画について見てみましょう。
利用資料:(3)農産物輸出の一層の促進:農林水産省
(図内の輸出額はアルコール飲料、たばこ、真珠を除いた金額)
2006年の農村白書公開時点での農林水産物・食品輸出額は3739億円。
この時点で3年後の2009年の目標が+58%の6000億、2013年が+167%の1兆円です。
最近よくみかける「目指せ輸出額1兆円!」は12年前から言われてきたことなのです。
さて、言わばこれが夏休み前の学習計画。
夏休み最終日の学習状況はどうだったのか?
まずは2009年の実際の輸出額をみてみましょう。
利用資料:農林水産物輸出入概況:農林水産省 平成21年農林水産物輸出入概況公表資料
2006年の資料の値に合わせ、比較対象はアルコール飲料などを除いた赤丸の部分。
3834億円です。あれれ・・・?
2006年が3739億円で、2009年が3843億円。
目標は+2261億円だったけど、実際は+104億円。
目標達成率は5%といったところ。ぐぬぬ・・・。これは先生に怒られる。
ただ弁護すると、2008年9月にリーマンショックがあったので、この影響はそれなりにあったことは考慮すべきでしょう。それは先生にも説明しとかないと。
でも前年の2008年で4312億円(+573億)ですから、伸び率からいっても2009年で6000億は厳しい目標設定だったと言わざるを得ない所。ここは先生に突かれますね。
その後たっぷりと時間をとって順にみてみましょう。
2009年:3843億円(2006年比で+2.8%;以下同)
2010年:4297億円(+14.9%)
2011年:3879億円(+3.7%)
2012年:3864億円(+3.3%)
2013年:4827億円(+29.1%)
2014年:5369億円(+43.6%)
2015年:6486億円(+73.0%)
2016年:6524億円(+74.5%)
2017年:?
2011年の東日本大震災で伸び率がグッと下がってしまったのは間違いないですね。
長期傾向としては徐々に増加しています。
ただ、2006年にたてられていた3年後の目標値6000億円を達成したのが2015年。
リーマンショックと東日本大震災の影響もあって結果目標の3倍の9年がかかっています。
また、2013年の目標だった1兆円には、同時期に5000億円以上足らず、2016年時点でもあと+350億円程度必要という状況。
不運なビックイベントが2つあったにせよ、目標設定が高すぎた感は否めませんね。
あと一点気になるのは、最近いわれている「目標輸出額1兆円」は、以前までは除外していたアルコール飲料、たばこ、真珠も含めた額になっていること。
2006年の農林白書のグラフで示されていた値と、最近の農林白書のグラフで示されていた値の種類が違うので気付くのに時間がかかりました。
どういう経緯でそうなったかは分かりませんが、①過去との整合性よりも、分かりすい明確な目標値設定を重視している、②なにがなんでも目標を達成したい、のかなぁという印象をもってしまいますね。
下のグラフは2017年10月公表の資料ですが、来年2019年に1兆円達成にはあと250億増くらい必要です。さてさて、どうなるかは2019年の農林白書公表を楽しみに待ちましょう。
利用資料:農林水産物・食品の輸出に関する統計情報:農林水産省
ということで、結論としては以下のようなものになるかと。
農林水産省の計画力と実行力の評価において、
(1)リーマンショックと東日本大震災は大きなマイナス要因だったことは確か。
(2)輸出額増が徐々に達成されていることは確か。
(3)不運な要因を差し引いても、目標設定が現実味を帯びておらず、こうあってほしいという願望が先行している。
(4)目標達成を優先するあまり、ルール自体を改変する傾向がある。
なので、目標設定には希望的観測が多い(2~5倍増し?)、目標達成のためにルール改変があり得る(前提の改変)ことは踏まえておいた方が良いですね。