自然栽培の現状を解説Part3「桐島、無肥料でも土壌の窒素が減らないってよ」
収入はないけれど、生きてりゃ支出はどうしても出てくる。
家計の収支がマイナスなら、生きてる分だけ借金が増えていき、買えるものがどんどんなくなっていく・・・
それがお財布事情と生活の関係ですね。
で、農業でも、この考え方が結構常識的です。
つまり、肥料をやらないで収穫を続けていれば、収入はないのに支出してるのと同じ。
収支が常にマイナスだから、無肥料で栽培を続けるほど土壌養分は減っていき、いずれ生産性が破綻する・・・
という考えです。
確かに理屈ではナルホドで、自然栽培などの無肥料栽培にこの手のご指摘は付き物ですが、ところがどっこい実際の生産現場では、何十年も生産性が維持されている事例はたくさんあったりするのが現実です。
で、今回は「なんで無肥料でも生産性が減らないのさ?」って疑問について検証してみている挑戦的な論文のご紹介。
2006年に発表された論文で、作物学では長い伝統をもつ京都大学作物研による研究報告。長期的に無肥料栽培を継続している桑園の土壌について19年のデータを分析してますから、超貴重です。19年間分析に耐えられる質のデータを取り続けるって、なかなか難しいですからね。
さて、この論文では隣接する施肥畑と無施肥畑と比較してますが、例えば肥料の影響を受けやすいpHの推移はこんな感じになっています。
●が肥料区で、○が無肥料区。
肥料を与えることによって土壌が酸性方向に傾いてますね。
この桑園では肥料区では窒素30kg、リン酸20kg、カリウム20kg/10aの化学肥料が施用され、一方で無肥料区ではなにも入れずに落ち葉も区の外に搬出し、完全に土に何もいれない、っていう状態を19年継続します。
でもって、桑の葉はどちらからも普通に収穫しますから、通常の論理で考えたら無肥料くでは土壌中の養分が減少して生産性も減少するはず、なのですが・・・
上が土壌の全窒素量、下が土壌の全炭素量なんですが、どちらも1984年から1992年にかけては少しずつ減少してますが、その後はなんか増えてます。
間に測定していない年が結構あるのがデータの質としては玉に傷ですけど、結果的に土壌全窒素量が19年間でほとんど土壌から減少していないってのは驚きの結果です。
だって、毎年桑の葉を収穫して、17.1g/m2程度の窒素を外部に持ち出してる訳ですからね。
毎月毎月お金を使ってるのに、知らない内に財布にお金が入っている、みたいなもんです。つまり最高な状態。
でもって、収量がどうかというと、収量も全然わるくない、っていうか肥料区よりも高かったりしています。
肥料を使わない→でも土壌の炭素・窒素量減らない→収量も高いまま維持
っていう、農学をまともに勉強してたら頭を抱えたくなるような結果ですが、こういう事例は現場では結構あったりします。特に水田だと事例は多しなので、今度また紹介しようと思いますが。
で、なんで無肥料でも土壌の窒素が減らないかは超気になるところですが、この論文では検証しておらず、可能性として
1)下層土からの養分移動
2)圃場周囲からの養分流入
3)土壌微生物の窒素固定
を指摘するに留まっています。1)と2)についてはあまりピンとこないですが、3)の微生物による窒素固定は今の農学界では熱いテーマなので、今度また紹介しようと思います。