おコメ博士の闇米日記

日本農業(特におコメ)について考えるブログです。とりあえず目指せ100記事。

根の中に住む小さな微生物の大きな役割

肥料になるべく依存しない農業をやりたい、という人にとって、大きな関心事となるのは微生物です。なぜかというと、肥料をやれば作物の成長が促進される、という肥料と作物の蜜月関係についてはもう相当な数の文春報が繰り出されており、あんなことやこんなことまで白日の下に晒されていますが、微生物と作物の関係については未だに謎のベールに隠されたまま。人々はその秘められた関係に興味津々です。

パパラッチのイラスト

なんといったって、1gの土の中には1億以上の微生物がいると言われています。

その中で、どんな種類の微生物が、どんな働きをしているのかは、微生物が人間にとって極めて小さく扱いづらい存在ゆえに、その全貌を知ることが分からなかったのです。

つい最近まで、微生物研究はシャーレという単純な環境で一種の微生物を培養し増殖させ、その機能を解明することが主でしたが、言わばそれは1億人の日本人の中から1人だけの人間性や能力を調べるようなもの。日本社会の実態はもっと多様で複雑ですよね?微生物の世界も、実態はもっと多様で複雑です。

そもそも1億の微生物の内、培養可能な微生物ってわずかだったんですよね。

複雑な人間関係のイラスト(棒人間)

ところが近年、ゲノム科学というものが飛躍的に進歩したお陰で、シャーレでの培養を経ずして、この多様で複雑な集団全体を研究することが可能になってきました。

言わば日本人一人一人を調べることは無謀だから、日本人全体をすりつぶして(残酷ですね)ゲノムだけを取り出し、どんな性質のゲノムがどれだけあるかを調べることによって日本社会を明らかにしようとするようなもの。

これにて、農業における微生物の役割についても現在急速に光が当たりはじめています。

 

さて、農業における微生物というと、マメ科植物と根粒菌の関係がとても有名です。

File:Astragalus sinicus genge konryu.jpg

こういうヤツですね。

根にくっついているこの白い球体が根粒と言われるもので、根粒菌はこの根粒の中に棲息し、植物から栄養(光合成)をもらいつつ、植物には別の栄養(アンモニア態窒素)を渡す、というもちつもたれつの共生関係を結んでいます。

なんとも絶妙な微生物の世界―――

なのですが、微生物の共生関係はなにもマメ科植物だけに限りません。

実はイネでもあるんです

 

ということで、ここ数年で最も強いインパクトを受けたイネとイネの根に棲息する微生物についての論文を紹介します。

www.jstage.jst.go.jp

内容はシンプル。

まず、窒素肥料を5年間普通に与えた水田と、窒素肥料を5年間まったく与えない水田を用意します。

それでもって、同じように稲を育てて、5年後のイネの根の中に住んでいる微生物の集団を比較します。

つまり、土壌に窒素が豊富にある場合と、土壌が窒素欠乏の場合では、イネの根に棲息する微生物の種類が変わってくるのじゃないかな?って研究です。

で、この研究が注目されたのはメタゲノムという大規模遺伝子解析の技術を農学の分野に応用した先駆的な研究だったこと。先ほども書きましたが、これまで根の中にいる微生物の群集を一気に研究することが出来なかったので、シンプルにどうなってんの!?ってことで盛り上がる訳です。

で、窒素肥料の有無によって微生物がどんだけ変わるかですが、土壌の微生物の変化に比べて、根内部の微生物の変化はとても大きいってことが分かりました。

下の図がそれを示しているのですが、左側のプロットが示しているSoil LNってのが低窒素(Low Nitrogen)の土壌微生物、SNってのが標準窒素(Standard Nitrdogen)の土壌微生物です。で、右側にある四角が、低窒素の根内微生物、標準窒素の根内微生物です。

f:id:mroneofthem:20180209191801p:plain

見れば明らかのように、左側の土壌微生物の方は窒素レベルでの差が小さいですが、右側の根内部微生物の方は窒素レベルで大きく離れてますよね。

これは、微生物群集の質が全然ちがってるよ、ってことです。

 

で、どんな風に微生物群集の質が変わったが重要ですが、ザックリと言うと次のようになります。

 

標準的な窒素肥料→メタン生成微生物群集が優先し、還元的な代謝が誘因されて、窒素固定活性が低下する。

 

窒素肥料なし→メタン酸化(硫黄酸化)微生物が優占し、酸化的代謝や窒素固定を誘引する。

 

ちょっと難しい表現になってしまってますけど、要は窒素肥料がある場合は根周辺の状態が空気の少ない状態になって(息苦しい感じです)、メタンガスを発生させるような環境になってくること。

逆に窒素肥料を与えない場合は、根周辺の状態が空気がある状態になって、メタンガスを分解する微生物や大気中窒素を固定する微生物が多くなる環境になっている、ってことです。

農業においてメタンガスは温室効果ガスとして減らさなくてはいけないガスの一種ですから、窒素肥料がこれを増加させているってことを示唆するこの結果は重要かつ面白いのです。

逆に言えば、窒素肥料という管理一つだけで、こんな風に根周辺の環境が大きく変わって、メタンガスを分解するシステムや、大気中の窒素を供給する生態系システムが出来上がってくるって訳ですからね。たかが水田の肥料管理が、地球の物質循環とかに関わってるのです。たかが水田、されど水田。

コレは、個人的には超おもろいです。

 

ちなみに日本微生物生態学会なるものがあるのですが、この論文はその学会の優秀論文にも選ばれたりして、農学的にも大きなインパクトを残しました。↘

日本微生物生態学会 » 2015年度 受賞論文

この分野はこれからも熱いので、農学を目指す若者にはこの分野ガンガン攻めてほしいと思ってます。どうやって微生物の力をつかって地球環境の負荷を減らしつつ、作物生産も高めるか、ってのは、21世紀の超大きなテーマですからね。