これからは日本酒も「寝かす」時代?
ワインを熟成させると美味しくなるってのはフランスでは常識ですが、日本酒を熟成させると美味しくなるってのは日本ではあまり聞きません。
でも、日本酒もワインと同じように適度な温度条件で保管していると、よりまろやかで深みのある味になってきます。
なので、通にはビンテージの日本酒はかなり人気です。
さて、去年クラウドファンディングサイトで一躍注目されたビンテージ日本酒がありました。
その名も S48 Showa Hatusakura。ラベルも洒落乙です。
この日本酒は、昭和48年製造の日本酒を長期にわたって熟成させた40年超のビンテージもの。和歌山県の小さな酒蔵「初桜酒造株式会社」の試みです。目標金額100万のところ、300万超が集まってますから、ビンテージ日本酒にみんな興味津々な訳ですね。
さて、近年注目の熟成日本酒ですが、実は最近はじまったということでもないようで。
江戸時代の教訓所である「訓蒙要言故事」には、「新酒は、頭ばかり酔う。熟成酒は、からだ全体が潤うように気持ち良く酔う」と書かれています。
江戸時代から、熟成酒の良さは飲兵衛には知られていた訳ですね。
さてさて、実は熟成の概念はコメの方でも近年ひそかに注目されています。
人生で初めて熟成コメを見たのは確かNHK番組「コメ食う人々」のイタリア編。
リゾットで有名なイタリアですが、良いリゾットには歯応えのあるコメが適しているということで、良質なコメを得るために籾の状態で5年~10年と保管してました。
厳しい顔した職人風のシェフが、味見をしたあと熟成コメの方を静かに誉めていた覚えがあります。
なんでもワインの年代物みたいに、何年寝かせたコメが最高級とか、そんな会話をしてる訳です。
日本じゃ古いコメは古米といって嫌いますから、コレは新しい発見でした。
「寝かせればより質が上がる。」コレ、結構革命的な発想で、日本でも最近はじめている農家さんがいたりします。時間がかかるプランですから、始めるなら早い方がいいですからね。
熟成が味を引き出すメカニズムを勝手に考えると、恐らく時間をかけて乾燥させる所にポイントがあるのかなと思います。
乾燥機にかけて急速に乾燥させると、水分が抜ける時にデンプンの構造が壊れてしまいがちですが、何年もかけてじっくりと水を抜くと、デンプンの構造が壊れ切らないのではないか、と思います。だから歯応えがあるってのは、物理性がしっかりしてるってことなので、デンプンの構造の問題なんじゃないかと思ったりします。
この点、日本酒やワインの熟成は、菌や酵素の関係なので別のメカニズムでしょうね。
と、そんな風に、一見コメの在庫や保管をどうするかってのはコメを扱う人にとって頭を悩ませる所ですが、ほんの少し考え方を変えて保管設備を整えるだけで、時間がプラスの価値に転じることにもなります。
考え方って、すごいな、と思う今日この頃。
なんもいっても、グローバル社会は売れるものはすぐ真似される時代です。日本酒の参入障壁は高いですが、それでもいつか海外で安価でそこそこ美味しい日本酒が大量生産されないとも限りません。そういう状況でも市場で差別化できるように、今から日本酒を熟成させて更なるブランド化を狙っとくのも、戦略的に賢いと思っています。