農学博士の僕が自然栽培の課題を3つ挙げてみます。
前回の記事で、自然栽培のいいトコロを3点紹介しました。
いいトコロばかり書くってのもアレなので、今回は自然栽培の現状と課題を書いてみることにします。なにごとも現状認識してこそのKAIZENですからね。
1)栽培技術が確立していない
農業技術には特許という概念がありません。
なので、どのような状態を栽培技術が確立している、と言っていいかは微妙な所。
同じ気候の年はありませんし、どの程度の収量や品質が技術の成功を意味するかは、農業の場合極めて曖昧です。
とは言え、それぞれの都道府県で栽培歴や手引きが公開されている一般的な農法(肥料・農薬の使用を前提にしている)に比べると、自然栽培の技術はまだ確立されている、とはとても言えません。
現状は、その田んぼの条件や管理者の腕によって、結果が大きく左右される、というトコロ。自然栽培は、「こうやれば上手くいく」というマニュアル型の栽培ではないため、成功した事例をそのままマネすれば上手くいく、訳ではないのが厄介な点です。
それでも、自然栽培稲作にも基本的な要点をおさえたマニュアルがあって、石川県羽咋市や岡山市が出しているものはクオリティが高いです。
羽咋市の自然栽培マニュアルを紹介しているブログ↘
http://happybirthcafe.naganoblog.jp/e1659719.html
こうしたマニュアルや経験者の体験談から基本原理を確認しつつ、その土地土地の最適解を見つけることが成功への最も近い道だと思います。
2)科学的検証が十分とは言えない
私自身が自然栽培の科学的検証に取り組んだ一人ですが、そもそも農業の評価項目は収量・品質・環境負荷などと多岐にわたり、また評価の手法も様々ですから、一人や二人の研究者で検証できる点には限界があります。
例えば私の場合、自然栽培水田の窒素の循環にフォーカスして、低窒素条件が窒素固定微生物などの特定の微生物を優占させ、収穫によって失われる分の窒素を大気中の窒素固定によって補っている、ことを明らかにしました。
しかし、稲の栽培にとって重要なのは窒素だけではありません。
じゃあリンは?じゃあカリウムは?と言い出せば、キリがなくなってしまいます。
現時点では、そうした問いに充分に答える科学的なデータがありません。
科学的検証の進み具合=信ぴょう性、になってしまうと、研究者の数が圧倒的に少ない自然栽培は、その科学的検証が遅れている、と言わざるを得ないのです。
3)宗教やスピリチュアルな動機で取り組む人もそれなりにいる
私は必ずしも宗教やスピリチュアルを否定する訳ではありませんが、現代の一般的な日本人にとって、宗教やスピリチュアルは縁遠い存在なのは事実でしょう。
なので、私の友人・知人でも「自然栽培」というワードを聞くと、宗教やスピリチュアルを連想する人が多くいて、多くの場合忌避感をもってしまいます。
なんか「危ない!」匂いがする訳ですね。
自然栽培に取り組んでいる人たちの動機は様々で、既存の農政の方針や農協体制に見切りをつけた人から、肥料や農薬をあえて使わないでやることに面白さを感じてやっている人、環境や持続性のことを考えてやりはじめた人、家族のアトピーやアレルギーが原因ではじめた人、など十人十色です。宗教やスピリチュアルが動機の人もいます。
特に農業は天候から受ける影響が未だに大きい産業ですので、宗教やスピリチュアルと親和性のある産業なのでしょう。
宗教やスピリチュアルな動機で農業に取り組むのも良いですが、問題なのは「これが正解だ!」と決定してしまって無思考になることです。
そうすればKAIZENはなく、技術が向上することはないからですね。
自然栽培に取り組む人たちには、まさに職人や技術者だな、と思わされる人も多くいますが、一方で無思考に陥ってしまう人もいるようで、そうなると技術改良や品質改善は難しくなってしまいます。
そういう訳で、前回はいいトコロがたくさんあるよ、とした自然栽培ですが、現状ではこれらの課題があることも事実なのです。
こうした事実を直視して、楽しく問題解決を図っていくことに、自然栽培の未来があると考えています。