おコメ博士の闇米日記

オワコンと言われがちな日本のおコメ。令和のこの時代に、グローバル視点で日本でおコメを作る意味を考えます

日本農業のディストピア① ―頭角表す北海道農業ととり残される日本農業―

北海道農業は日本農業において一人勝ちしていると以前の記事で書きました。

mroneofthem.hatenablog.com

 

≫北海道農業の特殊性 

たかだか150年程度の開拓の歴史しか持たない一地方ながら、その広大な大地フロンティアマインドによって、北海道は日本農業における極めて重要な役割を担いつつあります。それは、次のようなデータからも明らかなことです。

1)耕地面積全国の26%を占める。

2)農業経営体の法人化率が都府県より7%高い

3)農業所得が全国平均の5~6倍。(下図参照)

4)農業就業者の65歳以上の割合が全国より25%程度低い

図3-27 農業地域別農業所得の推移

つまり高齢化や後継者不足が大問題となっている日本農業に関わらず、北海道では若い人が農業に参入しています。その大きな理由として儲かること。儲かる理由は、広大な大地の強さを活かした大規模効率化法人経営化が大きな要因です。北海道ブランドも相俟って、経営耕地面積30ha以上の農家の農業所得は1000万を超えています(下記グラフ参照)。

f:id:mroneofthem:20180109220345p:plain

 

「儲かる農業」「大規模効率化」「法人経営化」・・・

これらのキーワードに聞き覚えのある人も多いはず。

そう、これらはまさに現政府が進める「攻めの農林水産業において頻繁に出てくるキーワードの一群なのです。

したがって北海道農業は言わばクラス中で飛びぬけた成績を叩き出している優等生

先生から言わせればクラスメイト全員に見習ってほしい存在です。

 

≫沈みゆくかつての日本農業

さて、他方で他の都府県の農業の現状はどうでしょうか。

北海道の経営耕地面積の約1/14スケールである都府県の小規模農業では、近年集約化を進めてはいるものの農地の分布上大規模化には限界があります。北海道ではICT等の新しい技術を積極的に活用し効率化を進めていますが、都府県では最新技術を導入しても面積が小さいため効率化の度合いが低く、むしろ機械導入のコストがかさみます。したがって経営は厳しく、農家所得が100万円以下を切る農家も珍しくありません

特に日本農業の主幹品目だった米の現状は年々深刻さを増しています。元々非常に閉鎖的だった米マーケットは、米消費量の減少にともなって縮小。米価の低迷に引きずられて、稲作家族労働報酬は減少を続け、2010年には遂にマイナスへ(下グラフ参照)突入しました。経営的には継続が困難な状態にありながら、農家の土地の継承といった価値感によってかろうじて稲作は継続しているといった状況が増えています。米需要が急激に高まると予想することは難しいため、基本的には経営は厳しい状態が続き、若者の参入も期待することは難しいでしょう。

 

稲作農家の「時給」、史上初めて「赤字」に転落(2012年4月30日・5月7日 合併号 第1019号)より抜粋)元データは*1

 

現政府が主唱するように、これまで内向きだった日本農業のベクトルを外国へ向け、発展するアジアをマーケットに米を売り出そうとする戦略も切り札の一つではあります。しかし、以前の記事でも書いたように、「コシヒカリを安く作る」ということにおいては東南アジアの方がアドバンテージがあることも事実なのです。日本で作るコメが無条件に美味しい、というのは神話です。美味しいコメが出来るには必ず理由があり、美味しいコメを安定生産するには絶えず栽培技術を高めなければいけません。あらゆる産業において今の日本が直面している問題ですが、コスト勝負になれば外国に太刀打ちは出来ないのです。

mroneofthem.hatenablog.com

 

さて、暗い気分になりながらも、日本農業のディストピアを指摘してきました。

しかしこれらの現実は、何も突然湧いたり降ってきた訳ではありません。

北海道農業が安定経営の基盤を固めつつある間、日本農業は一体なにをしていたのでしょうか?

 

次回の記事からは、日本農業の戦後の歴史を辿りながら、その本質と限界、そして現在の不振に陥った理由を探してみましょう。